井村知加

おくびょうなおおかみとおくびょうなりす




おおかみはもりのみんなからきらわれていました。

おおかみがもりにあそびにいくたびに
もりのみんながいなくなります。
でもおおかみはじぶんがきらわれものだって わかっていました。

おおかみはいつもひとりなので、すきなようにあそびました。
おおごえでうたをうたったり
ひたすらはしりまわったり
ときにはしずかにかわのせせらぎをきいてみたり。
おおかみはそれでもしあわせでした。
でもどうしてよるになると、こんなにもさみしいきもちになるのでしょうか。

おおかみはもりのことはなんでもしっていました。
だけどそのひとつだけ、どうしても わからなかったのです。

よるになるとからだがふるえます。
よるになるとなみだがぽろぽろとこぼれおちます。
おおごえでないてしまうのだけど
かえってくるのはよかぜにゆれてきしむきぎのおとだけ。
おおかみはさらにさみしくなり
こんどはちいさなこえでなきました。

するといっぴきのりすが す からかおをだして
「さみしいの?」
と、たずねてきました。
りすもふるえていました。
からだもこえも。
おおかみがそのこえにきがついたときには
りすはまた す にかくれてしまいました。
おおかみはなきながらいいました。
「さみしくて いまにもしんでしまいそうなんだ。」
「それがまいにちつづくんだよ。」

りすは す からかためだけをのぞかせて
おおかみのはなしをききました。

りすはおおかみのそのおおきなくちと
するどいつめにいっしゅんおびえましたが
おおかみのやさしいまなざしをみのがしませんでした。

なみだでうるんだおおかみのあおいめ
りすはおおかみに
「だいじょうぶだよ。」
と、ひとことだけいいました。
きらわれもののおおかみは
はじめてじぶんいがいのひとにこえをかけてもらえたものだから
うれしくてしかたなくて
りすの す のちかくにゆきました。

でもりすはおもわずかくれてしまいました。

おおかみはまたひとりになって、おいおいなくのでした。


おくびょうなおおかみと
おくびょうなりすの
おはなし。






2010年5月発行「年刊文芸誌 DtD」掲載

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